研究概要 |
不活性オレフィンの触媒的活性化は,近年最も注目を集めている研究テーマの一つである。本研究では,同一分子内に存在する二つの不活性オレフィンを同時に活性化してカップリングさせ,多様な環状化合物を一挙に合成する方法論を確立し,さらに天然物合成へ適用することを目指した。その結果,基質の設計を精密に行い反応条件を詳細に検討したところ,3〜10mol%の酢酸パラジウムを用いることにより,酸素雰囲気下(1気圧)に,ビシクロ[3.2.1]オクタン化合物,デカリン誘導体・さらにヒドリンダンが好収率で合成出来ることが明らかになった。また本法(触媒的環化アルケニル化反応)を芳香族化合物に適用したところ,同様に環化反応が進行し,芳香環が融合したインダン化合物が好収率で得られることが明らかになった。さらに,基質に光学活性体を使用すれば,生理活性天然物の不斉合成に利用可能なキラル合成素子が簡単に合成できることも分かった。 次に,上記した触媒的環化アルケニル化反応を利用するアフィディコリン合成に着手した。アフィディコリンはDNAポリメラーゼαを選択的に阻害することから抗腫瘍剤として期待されている四環性のジテルペンである。これまで,多くの合成化学者による合成が報告されているが,D環部の側鎖の立体化学まで制御した合成例は殆ど知られていない。本合成により,今までの問題点が全て解決された。すなわち,アフィディコリンのCD環部の合成に触媒的環化アルケニル化反応を適用して,好収率で官能基されたビシクロ[3.2.1]オクタン環部を合成した。次に,この双環性化合物の構造上の特徴を利用してD環部の側鎖を導入すべくCorey-Chaykovsky反応を適用し,望むエポキシドを立体選択的に合成した。さらにエポキシドの加水分解を行いジオールとしアセトナイドで保護した。これよりジエン部ならびにジエノフィル部を構築後,分子内Diels-Alder反応によりAB環部を立体選択的に合成し,官能基変換を行い,アフィディコリンの全合成を達成した。
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