常用裏の薬を投与されたにもかかわらず、薬の血中濃度が異常に高くなることによる副作用の経験者は、患者全体の10%以上いると言われている。薬の血中濃度は薬物の吸収、分布、代謝、排泄の4つの因子によって変動するが、血中濃度における個人差の主たる要因は代謝過程にあると考えらる。薬物代謝酵素の働きは、遺伝、年齢、栄養状態などの内的要因や、喫煙、併用薬、食事などの外的要因によって大きく影響される。しかし、実際のところ、多くの食品の抽出物が薬物代謝阻害活性を示すことは症例としては報告されているが、物質レベルではまだ明らかにされていないのが現状である。そこで、食品に含まれている薬物代謝阻害物質の構造を明らかにするとともに、「新しい概念の薬」および「がん予防薬」としての活用を探るべく、本研究を計画した。 エームズ試験はヒスチジン生合成系に欠損のあるサルモネラ菌変異株を用いて、変異原性を示すサンプルが、菌のヒスチジン要求性を非要求性に復帰突然変異させることを観察する試験である。化学発がん剤の多くは動物体内で代謝されて初めて真のがん原性を獲得する(代謝活性化)ので、試験はラット肝から調製した薬物代謝酵素(CYP)共存下で行なう。この試験においてイチゴの酢酸エチル抽出物を添加することにより、標準変異原物質であるTrp-P-1の変異原性が抑えられた。この予備実験から、イチゴ抽出物に含まれる薬物代謝酵素阻害成分がTrp-P-1の代謝活性化を抑制した可能性が考えられる。 本年度は、イチゴのMeOH抽出物から単離した3個CYP阻害物質の構造を決定した。そして、それらの化合物の50%阻害活性を調べて、成果に関する論文をJ.Nat.Prod.に投稿した。
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