研究概要 |
本研究は,高等植物由来のステロイド配糖体やフェノール性物質のうち,アポトーシス回避機構を獲得した腫瘍細胞に対して,アポトーシス誘導の標的分子に作用してアポトーシスを誘導する化合物を探索し,アポトーシス誘導分子標的薬剤のシードを見出すことを目的として実施したものである.本年度得られた研究成果の要約は1-3の通りである. 1.中国で古くより癌の治療薬として用いられてきた生薬「仙茅(Curculigo orchioidesの根茎)」より新規シクロラノスタン型トリテルペンである3β,12α,16β-trihydroxy-9,19-cyclolanostan-24-one (CO-1a)を単離し,スペクトル解析と化学誘導により構造を決定した.CO-1aは,HL-60白血病細胞に対してIC_<50> 0.87μg/mLという強い細胞毒性活性を示した.そこで,CO-1aについてヒト培養腫瘍細胞を用いたパネルスクリーニングを実施したところ,39種の腫瘍細胞に対する平均GI_<50>値は3,1μMで,乳癌細胞BSY-1とMDA-MB-231,脳腫瘍細胞SF-268,肺癌細胞DMS114,メラノーマ細胞LOX-IMVI,卵巣癌細胞OVCAR-8,腎臓癌細胞RXF-631LとACHN,胃癌細胞MKN7に対して比較的強い選択的毒性を示した.毒性活性のスペクトルはデータベース上の既存の抗腫瘍活性物質や抗癌剤と一致せず,現在アポトーシス誘導活性を中心とした活性メカニズムを検討中である. 2.キク科ニトベギクの地上部より3種のフラボノイド,luteolin, nepetin, hispidulinを単離し,構造を同定するとともにHL-60白血病に対する細胞毒性を検討した.その結果,hispidulinが最も強い細胞毒性活性を示し,そのIC_<50>値は8.0μMであった.最近,luteolinが腫瘍細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導することが報告されており,hispidulinについて今後詳細な毒性メカニズムを検討する予定である. 3.タシロイモ科Tacca chantrieriの根茎より3種の新規エルゴスタン配糖体を単離し,スペクトル解析と化学誘導により構造を決定した.これらは顕著な細胞毒性活性を示さなかったが,エルゴスタン骨格の26位メチル基がカルボキシル基まで酸化され,そこに4から6個のグルコースからのみ構成された糖鎖がエステル結合しているビスデスモシド型ステロイド配糖体であり,天然物化学的観点からは極めて興味深い構造の化合物である.
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