研究概要 |
本研究は,N-トシルヨードアジリジン誘導体を種々のアザホモアリルラジカル(2-アルケニルアミジルラジカル)前駆体として用いる,アルケン類との分子間ラジカル[3+2]付加環化反応の開発を目的として行なっているものである.以下に平成16年度の研究成果を記述する. 1.不斉ラジカル[3+2]付加環化反応を利用した生理活性アルカロイドの合成研究 今年度は,昨年度報告した光学活性ヨードアジリジン誘導体を用いる不斉ラジカル[3+2]付加環化反応を利用して生理活性アルカロイド(パンクラシン)の合成について検討した.すなわち,光学活性な双環性ヨードアジリジン誘導体(94%ee)とケテンアセタールとの反応により得られたオクタヒドロインドール誘導体(93%ee)を用い,数工程を経てパンクラシン合成のための有用中間体へ変換した.現在,全合成に向けて鋭意検討中である. 2.不斉ラジカル[3+2]付加環化反応におけるラセミ化の機構 上述の光学活性ヨードアジリジン誘導体を用いる不斉ラジカル[3+2]付加環化反応において,使用するアルケンの種類により一部ラセミ化が生じることを昨年度見いだしている.今年度はこのラセミ化の機構についても検討を加えた.その結果,ラセミ化はビニルエーテル誘導体を用いた時に最も顕著であり,アルキル置換アルケンやケテンアセタールとの反応では,ほとんど観察されないことを明らかとした.さらに,ラセミ化に及ぼすアジリジン環窒素原子の置換基効果や溶媒効果などについて検討を加えたものの,顕著な差は見られなかった.また,このラセミ化は光学活性シクロヘキセニルアミジルラジカルがアルケンに付加後生成したラジカル種による不斉炭素上の水素の引き抜きによって生じていることも明らかにした.
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