研究概要 |
南アジア地域の伝統医療体系であるアーユルヴェーダ医学において用いられる薬用植物約120種の抽出エキスを調製し,ラット小腸刷子縁膜由来α-グルコシダーゼ阻害活性,ラットレンズ由来アルドース還元酵素阻害活性およびブタ膵臓由来リパーゼ阻害活性といったin vitroスクリーニングを実施し,数種の侯補素材を見い出した.次いで,ショ糖および麦芽糖負荷ラットモデルにおける血糖値上昇抑制作用(in vivo)試験により,最も有望な素材として現地で肥満や糖尿病の予防あるいは治療に,主に茶剤などとして供されている薬用食物Salacia reticulata(幹・根部)をはじめとしたSalacia属植物が見い出された.そこで,Salacia属植物の抗肥満および抗糖尿病作用の解析ならびに活性成分の探索研究に着手した. スリランカ産S.reticulata MeOH抽出エキスに,二糖類であるショ糖および麦芽糖負荷ラットにおける強い血糖値上昇抑制作用が認められた.一方,単糖のブドウ糖負荷モデルにおいては殆ど作用を示さなかったことから,その作用様式としてα-グルコシダーゼ阻害活性が示唆された.そこで,ラット小腸刷子縁膜由来α-グルコシダーゼ阻害活性を指標に活性成分の探索を実施したところ,新奇なチオ糖スルホニウム硫酸塩構造を有するsalacinolおよびkolatanolを単離し,その化学構造をNMRおよびX線結晶構造解析などにより決定した.さらに,salacinolについてin vivoにおける糖負荷試験を検討した結果,市販α-グルコシダーゼ阻害剤のacarboseよりも強い血糖値上昇抑制作用が認められ,これらのチオ糖誘導体が新たなα-グルコシダーゼ阻害剤の侯補化合物として有望であることが示された.また,Salacia属植物に含有されるキサントン配糖体mangiferinやトリテルペン成分に,白内障や神経障害などの糖尿病合併症の予防効果が期待できるアルドース還元酵素阻害活性が認められた.一方,S.reticulataの熱水抽出ユキスについてZucker fattyラットや高脂肪食飼育ラットにおける体重増加の抑制傾向が認められ,また含有ポリフェノール成分にはブタ由来膵リパーゼおよびラット脂肪組織由来リポプロテインリパーゼ阻害活性が認められたことから,小腸からの脂肪の吸収と脂肪蓄積の両方を抑制すると示唆される結果を得,肥満や高脂血症予防に有効であることが明らかとなった.その他,医薬品のα-グルコシダーゼ阻害剤の重篤な副作用である肝障害については,S.reticulata熱水抽出エキスは,むしろ肝障害に対して保護的に作用することや,抗酸化作用,胃粘膜保護作用などを有することを明らかとしており,平成14年度の当初計画について,ほぼ達成したものと考えられる.
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