研究概要 |
本年度は,『シス効果』と呼ばれる配位子効果を利用し,コバルト以外の遷移金属錯体の活性化をはかり,これら錯体が媒介する有機合成反応の効率化ならびに新反応の開発を目的に研究を行った.また,活性遷移金属錯体を利用した窒素酸化物固定反応の開発を目指し,その準備段階として未だ有機化合物との反応が知られていない一酸化窒素の反応性を明確にする研究も合わせて行った. まず,前者の研究に関しては,数ある遷移金属の中でもあまり有機合成に利用されていないモリブデンに着眼し,低原子価モリブデン錯体の中で最も安価なモリブデンヘキサカルボニルの活性化を試みた.既に知られている,6-ヘキセン-1-イン誘導体を基質とした一酸化炭素配位子の挿入を伴う化学量論的シクロペンテノン形成反応(所謂Pauson-Khand型反応)に焦点を当て,さまざまな配位子の共存下に反応を行ったところ,1,10-フェナンスロリンを共存させると好収率で所望する反応が進行することがわかった.また,臭化アリルや臭化プロパルギル,臭化ベンジルを共存させると,同じ6-ヘキセン-1-イン誘導体の環化的二量化によるシクロヘキサジエン形成反応が触媒的に進行することもわかった.これらの結果は,コバルト以外の遷移金属の活性化にも『シス効果』が有効であるということを示めしており,本方法論の汎用性が確認されたばかりか,方法が簡便ゆえ,今後様々な展開が期待される. 次に,後者の研究に関して,一酸化窒素と様々な有機化合物との反応を試みた結果,リチウムアセチリドだけが効率的に反応し,一酸化窒素を分子中に取り込んだ1,2,3-オキサジアゾール3-オキシドを好収率で生成することを見出した.本研究は,一酸化窒素を効率的に有機分子中に固定した世界初の報告であり,今後,この知見を元に,活性遷移金属錯体を利用した触媒的固定反応の開発へ繋げる予定である.
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