1.目的 エクソサイトーシス(開口放出)は、神経伝達物質、炎症性メディエーター、消化酵素などの放出に関わる重要な過程である。本研究では、エクソサイトーシスに大きな影響を与えると考えられる形質膜の膜成分、特に脂質二重層の両層間でのリン脂質の分布や動態がエクソサイトーシスに与える影饗を追究することを目的とする。 2.方法 脂質スクランブラーゼはリン脂質をその種類によらず脂質二重層の一方から他方の層へ移行させるカルシウム依存性酵素である。この酵素を細胞に過剰発現させたPC12及びマスト細胞株RBL-2H3細胞を用いて、リン脂質の脂質二重層間のリン脂質の非対称分布やフリップフロップ運動が亢進した系を確立した。これらの細胞を刺激してスクランブラーゼの活性化とエクソサイトーシスを同時に誘導し、エクソサイトーシスがどのように変化するかを調べた。細胞の刺激はPC12細胞においては高カリウム刺激、RBL-2H3細胞においては抗原刺激を用いた。エクソサイトーシス活性はそれぞれ細胞外に放出されたATP量とβ-hexosaminidaseを定量することによって行なった。 3.結果と考察 どちらの細胞の場合も、スクランブラーゼの過剰発現により、2価カチオンで細胞膜におけるリン脂質の非対称性が崩壊することが明らかとなった。このような細胞でエクソサイトーシスを誘導すると、エクソサイトーシスが顕著に抑制されるのが観察された。このことはエクソサイトーシスでは脂質成分の非対称分布が重要な役割をしていることを示唆するまた、スクランブラーゼの過剰発現によりエクソサイトーシスが阻害されたことから、エクソサイトーシスにおいてスクランブラーゼが積極的な働きをしている可能性は低いと判断された。
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