本研究では、細胞膜の蛋白質以外の膜成分、特に脂質二重層の両層間で非対称な分布をしているリン脂質やコレステロールがエクソサイトーシス過程に与える影響を追究することを目的とした。 (1)リン脂質非対称分布崩壊系の確立 脂質スクランブラーゼはリン脂質をその種類によらず生体膜の脂質二重層の方の層から他方の層へ移行させるカルシウム依存性酵素である。この酵素をマスト細胞株であるRBL-2H3細胞に過剰発現させ、リン脂質非対称分布崩壊系を確立した。 (2)リン脂質非対称分布のエクソサイトーシスにおける役割 上記(1)で得られた細胞を刺激してエクソサイトーシスを誘導し、どのような影響があるかを調べた。その結果、スクランブラーゼを過剰発現させた細胞では、エクソサイトーシスが顕著に抑制されるのが観察された。同様の結果をPC12細胞でも得た。 (3)コレステロールの役割 リン脂質とともに細胞膜の主要な構成成分であるコレステロールを細胞膜から除去する作用をもつmethyl-β-cyclodextrin(MBCD)の作用を調べた。その結果、MBCD処理によって、分泌顆粒と細胞膜の融合及び細胞膜のCaストア依存性Caチャネルが阻害されることが明らかとなった。(2)と併せてリン脂質やコレステロールがエクソサイトーシスにおいて重要な役割を果たしていることが直接的に証明された。 4)ラフト局在タンパク質flotillinの役割 コレステロールは、ラフトと呼ばれる細胞膜の構造の形成に深く関わっている。そこで、マスト細胞の活性化におけるラフト局在蛋白質flotillinの役割を検討した。flotillinの低発現株を樹立し、解析した結果、flotillinは同じくラフトに局在するチロシンリン酸化酵素Lynの活性を制御することによって、IgE受容体によるシグナル伝達を調節していることが明らかとなった。
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