1)ラット乳癌細胞の悪性化に関与する遺伝子の探索 ラット乳癌組織から樹立された退縮型癌細胞ER-1と、ER-1細胞をプラスチックプレートと同時にラットに移植して悪性形質を獲得させたERpP細胞を用いて、ディファレンシャルディスプレイ解析を行った。その結果、5種類の既知遺伝子と1種類の新規遺伝子がER-1の悪性化に伴い発現量が亢進することを見出した。 2)ヒト機能未知遺伝子の癌悪性化における機能解析 悪性度の高いヒト癌細胞で発現が亢進しているh18c遺伝子の機能解析を行った。その結果、乳癌と大腸癌ではh18cタンパク質の発現と癌細胞の悪性化との間に正の相関性が示唆された。h18c mRNAは1.35kbpで、正常・癌組織共に臓器ごとに発現に差が見られた。h18cタンパク質は細胞質に局在することを見出した。h18cタンパク質は細胞内でホモ2量体あるいはヘテロ2量体を形成して存在している可能性が示された。h18cタンパク質は、61-120番目のアミノ酸配列依存的に細胞質に局在することが明らかになった。 3)大規模ラットオリゴDNAチップを用いた網羅的な遺伝子発現の探索 ERpPにおける悪性形質獲得の分子機構の全体像を把握する目的で、2万種類のラット遺伝子由来オリゴDNAが搭載されたDNAチップを用いて、ERpPで発現が変動している遺伝子の網羅的な探索を行った。その結果、ERpPで発現が大きく変動している遺伝子が約600個検出され、その内3分の1は機能未知遺伝子であった。この事実は、癌細胞の悪性形質の獲得には、我々がまだ知らない多くの遺伝子(蛋白質)の重要な関与がありえることを意味している。
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