研究概要 |
力学刺激に対する心・血管系組織の反応は、高血圧や動脈硬化など血行力学刺激が亢進した循環系疾患での血管病態を説明しうる可能性がある。本研究では、肺動脈の力学刺激応答機構を標的にして、肺高血圧の薬物治療の新たな方向性を提案することを目指した。 肺高血圧時に相当する過剰な機械的伸展(100→180%)を摘出肺動脈に負荷すると、メカノセンサーの一種インテグリン関連シグナルが活性化される一方で、一連の経路として理解されていたプロスタノイド生合成が、インテグリンに依存的(TXA_2,PGF_<2a>)、非依存的(PGH_2,PGI_2,PGE_2)の独立した経路として活性化されること、伸展誘発性の肺動脈収縮を誘導する主たる因子はインテグリン非依存性経路由来のPGH_2であることを明らかにした。 インテグリン非依存的な伸展誘発性PG産生経路が分泌型ホスホリパーゼA_2(sPLA_2)で触媒されるものと推定し、sPLA_2特異的阻害薬インドキサム(塩野義製薬から供与)の効果を調べた。正常家兎肺動脈においては、比較対照の液性因子刺激であるアセチルコリン誘発性収縮に対して(IC_<50>=10.25μM)、伸展誘発性収縮(IC_<50>=0.513μM)は約20倍の効力比で阻害された。またこのとき非転換型PGH_2産生はほぼ完全に遮断された。 MCT-PHラットの肺動脈では、11種の既知sPLA2アイソフォームのうち、X型の発現が特異的に増大しており、また、肺動脈の病的性質として律動性収縮を発生する際には非転換型PGH_2が高レベルで産生されていたが、インドキサムは同病態ラット肺動脈の律動性収縮も完全に消失させた。 以上の結果から、肺動脈の伸展誘発性収縮の原因となる非転換型PGH_2は、肺高血圧発症時の肺動脈の収縮・緊張性異常にも関与し、X型sPLA_2がその治療標的となることが示唆された。
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