本研究の目的は、ドコサヘキサエン酸(DHA>の持つ動脈硬化症等の循環器疾患に対する有効性の作用機序を明らかにするために、血管平滑筋細胞機能に対する影響を検討することであった。培養ラット血管平滑筋細胞をインターロイキン(IL)-1βで刺激すると誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)およびmRNA発現、一酸化窒素(NO)産生が誘導されるが、DHAはそれらを有意に増強した。エイコサペンタエン酸も弱いながら同様の作用を示したが、アラキドン酸は無効であった。IL-1βによるiNos発現はp44/42MAPキナーゼの上流を阻害するPD98059により著明に抑制され、iNos発現にp44/42MAPキナーゼが重要であることが示唆された。そこでMAPキナーゼのリン酸化(活性化)を解析したところ、DHAはIL-1βによるp44/42MAPキナーゼ活性化をさらに増強した。このIL-1β刺激時には、同時にシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)が誘導される。そこで、COX-2発現誘導作用に対するDHAの影響についても検討し、DHAはIL-1β刺激によるCOX-2 mRNAおよびCOX-2蛋白発現誘導作用も増強することを明らかとした。しかしCOX-1蛋白発現に対しては影響を示さなかった。DHAは、PKC活性化薬であるフォルボルエステルによるCOX-2 mRNAおよび蛋白発現に対しても増強作用を示した。以上の結果より、DHAの循環器疾患に対する有用性には、持続的で緩和なiNos及びCOX-2蛋白発現増強作用が何らかの形で関与していることが示唆された。これらの作用を、in vivoの系で実際に検証することが今後の課題である。
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