本研究では、侵害伝達機構における脊髄ダイノルフィン系の役割を解明することを目的に検討を行った。得られた結果は以下の通りである。 1.プロダイノルフィン由来のビッグダイノルフィン(ダイノルフィンAとダイノルフィンBとが-Lys-Arg-で連結されたペプチド)をマウスの脊髄クモ膜下腔内(i.t.)へ投与した際、3fmolといった極めて低用量において後肢による下腹部への引っ掻き行動のscratchingおよび後肢や尾部を噛んだり舐めたりする行動のbitingやlickingなどの侵害行動を誘発した。 2.ビッグダイノルフィンと同様にポリカチオニックペプチドであるポリ-L-リジン(12および36pg)も侵害行動を誘発した。 3.ダイノルフィンを分解するシステインプロテアーゼの阻害薬であるN-エチルマレイミド(NEM)もビッグダイノルフィンやポリ-L-リジンと同様に侵害行動を誘発した。 4.これらの化合物による侵害行動はNMDA受容体イオンチャネル複合体ポリアミン調節部位の拮抗薬によって抑制された。 5.NEMおよびビッグダイノルフィン誘発性侵害行動はダイノルフィンAおよびBに対する抗体の前処理によって抑制された。 6.プロダイノルフィン欠損マウスにNEMを投与した際、野生型マウスで認められた侵害行動は観察されなかった。 以上の結果から、i.t.に投与されたビッグダイノルフィンおよびNEMによって分解が阻害された内因性ビッグダイノルフィンは、このペプチドが有している多陽性電荷のためNMDA受容体イオンチャネル複合体上のポリアミン調節部位に作用し、その結果この複合体の機能が亢進して侵害行動を誘発することが示唆された。
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