研究概要 |
平成14年度から16年度の研究実施計画に準じて実験を行った結果,以下の成果を得た。 1.トロンボモジュリン(TM)のDR-4配列にはRAR-αまたはRAR-β,RXR-αが,またGCボックスにはSp1,SP3,Sp4が相互作用し,それら核内タンパク質の発現状態が標的塩基配列との相互作用に影響を及ぼしている。 2.スタチン系薬剤はTM発現を高めるが,TM遺伝子上流-1568bpまでにはスタチン系薬剤処理後に変動する特定タンパク質が強く相互作用する配列は存在しない。また,この領域内には阻害タンパク質との相互作用が顕著に減少する配列も存在せず,このTM発現増加はRacやcdc42の活性化制御を介した機構である。 3.組織因子(TF)のAP-1配列には,c-Junとc-Fosのヘテロダイマーが結合するが,実際の内皮細胞ではAP-1配列への結合はそれらサブタイプの発現状態が重要である。 4.フィブレート系薬剤はTNF-αにより上昇したTF活性を抑制し,転写レベルでその発現増加を低下させる。それは,TNF-αにより増加するJun/Fosファミリーに対してフィブレート系薬剤が比較的早期に発現を低下させることと関連する。 5.PPAR-αのリガンドは,PPARの活性化を介してAP-1のRARやRXRとの相互作用を調節し,TF転写レベルに影響する。 このように,本研究ではTMがスタチン系薬剤によって,新たな核内転写因子の活性抑制機序を伴い発現増加することを示し,TNF-α依存性のTF発現増加に対するフィブレート系薬剤による新たな抑制機構について提示した。 以上から,脂質低下薬やある種のリガンドを用いて核内レセプターの活性化を制御することにより,TMやTF活性を介した血管壁における抗血栓性作用の調節が可能であることを明らかにした。
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