1 ラット胎児の海馬では内在性GLP-1が常時産生されている。既知の神経栄養因子の1つであるBDNFとの相互作用について検討した結果、内在性GLP-1が神経突起の長さだけでなく、神経突起の発生や分枝にも影響すること、内在性GLP-1とBDNF群細胞内シグナル伝達経路を共有して神経栄養因子様作用を示すこと、さらにBDNFよりGLP-1が主として機能している可能性が示された。同様に培養脊髄神経細胞でも神経突起伸長作用がみられたことから、発生期ではGLP-1は神経栄養因子であり、成熟後の脳損傷時にも同様の機能を示す可能性が示唆された。 2 頭部外傷性意識障害モデルマウスでは、頭部外傷負荷3日目から学習記憶障害が現れ、10日目でも同様に障害が持続している。GLP-1はたはGLP-2を外傷負荷10分後に脳室内投与すると、学習記憶障害の発症が抑制された。外傷の翌日に投与しても無効であった。外傷負荷10分後にアスピリンを皮下投与すると学習記憶障害が抑制された。インドメタシンは無効であった。したがって、外傷後の脳内では炎症性の反応が起きていて、これが学習記憶障害の原因の一つになっている可能性が考えられる。炎症性サイトカインであるIL-1βがGLP-2投与後に減少する傾向がみられたことから、一部は頭部外傷直後の脳内炎症反応の抑制に起因するものと考えられる。 3 本研究より、GLP-1及びGLP-2が神経変性や損傷による機能障害に対して治療効果をもつことが示された。
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