Brain-Muscle Arnt Like Protein(BMAL)は体内時計を制御する転写因子である。我々は脂肪細胞における体内時計を解析する目的で脂肪細胞分化に伴うBMALの発現量の変化を検討した。その結果BMALの発現量が株化前駆脂肪細胞ならびに間葉系幹細胞における脂肪細胞分化とともに増加することを見出した。またマウス脂肪組織におけるBMALの発現量を検討したところ、前駆脂肪細胞画分に比較して脂肪細胞画分において高い発現が認められた。そこでBMALの脂肪細胞分化誘導能を検討する目的で通常の培養下では脂肪細胞へとは分化しないNIH3T3細胞にBMALを過剰発現させ、その影響を検討した。その結果BMAL過剰発現細胞は分化誘導剤の添加により細胞内に脂肪滴を貯えた。また脂肪細胞特異的な遺伝子の発現パターンを示し、形態的にも遺伝子発現の点からも脂肪細胞への分化が確認された。以上をふまえ、マウス由来細胞である3T3-L1前駆脂肪細胞および3T3-L1脂肪細胞にBMAL発現アデノウイルスあるいはLacZ発現アデノウイルスを感染させ、遺伝子発現に対するBMALの影響を検討した。その結果、BMAL感染細胞において脂質代謝系酵素群の発現ならびにそれらを調節する転写因子、さらにはアディポサイトカイン類の発現の増加が認められた。その一方でBMALにより抑制される遺伝子としてHes-1が同定された。さらにBMALはHes-1プロモーター活性を抑制した。脂肪細胞分化におけるその直接的な役割は明らかではないがHes-1はいくつかの細胞分化の抑制に関与することが報告されている。以上のことからBMALは脂質代謝関連転写因子群の発現の誘導と同時にHes-1の発現を抑制することにより脂肪細胞分化の促進ならびに脂肪細胞機能維持に関与していることが示唆された。
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