アルツハイマー病の特徴的病変の一つに老人斑の形成がある。老人斑の主成分は、細胞外で線維化したアミロイドβ蛋白質(Aβ)の凝集体および集積した活性化ミクログリアおよびアストロサイトである。私は、この活性化ミクログリアの集積はAβの貪食・除去に関与するという作業仮説をたて実験を行った。培養したラットおよびマウス脳より調製したミクログリアの純粋培養系において、Aβ1-42(Aβ42)はAβ40よりも低濃度でミクログリアに貪食され、その後分解された。また、アルツハイマー病の老人斑に熱ショック蛋白質90(HSP90)がミクログリアと伴に集積していること、精製したヒトHSP90蛋白質はAβ42と結合することをを明らかにした。さらに、HSP90はミクログリアにおけるAβ42の貪食機能およびクリアランス機能を促進することを発見した。このHSP90によるミクログリアの活性化機構を、Toll-like receptor-4 (TLR4)遺伝子変異マウスから調製したミクログリアを用いて解析した。その結果、HSP90はTLR4を介して、NF-κBおよびp38MAPキナーゼを活性化させることが示唆された。これらの結果から、アルツハイマー病の治療戦略の一つとして、ミクログリアおよびHSP90を用いた方法が考えられる。 現在、ミクログリアのAβ42貪食機構を明らかにするため、細胞の極性・.運動の調節を司るアクチン重合について解析中である。予備的実験であるが、Rhoファミリー低分子量GTP蛋白質のRac1がミクログリアの細胞運動・形態変化およびAβ42の貪食に関与する結果を得ている。今後、その詳細なメカニズムを解析していく予定である。
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