アルツハイマー病(AD)の病理所見として多数の老人斑の形成、そしてその周辺への脳内免疫担当細胞であるミクログリアの集積が挙げられる。老人斑の主要構成成分であるアミロイドβ蛋白質(Aβ)は生理的条件下でも産生されており、産生と分解・代謝(クリアランス)のバランスが保たれなくなることにより、蓄積すると考えられている。そのため、ADの治療あるいは予防の観点からもAβクリアランスのメカニズムを解明することは重要な課題である。本研究では、老人斑におけるミクログリアの機能を解析する目的で、純粋ミクログリアにおけるAβ貪食メカニズムについて解析した。まず、ラットミクログリアにおけるAβの取込みについて免疫細胞化学的に検討した。ミクログリアへのAβ1-42ペプチド(Aβ42)処置1分後ではAβがミクログリア細胞膜に存在することが認められ、その後経時的な細胞質への移行が認められた。次に、このAβ貪食過程においてみられるミクログリアの形態変化について検討を行った。細胞骨格系の再構築を司る低分子量GTP結合蛋白質Rhoファミリーおよびそのエフェクター分子の局在を調べた結果、Aβ処置後N-WASP、WISH、はF-actinとは細胞内局在が異なるが、WAVE、Rac1はF-actinと共存する場所が多かった。このことから、ミクログリアにおけるAβ貪食過程に、WAVEおよびRac1が関与している可能性が考えられる。以上の結果から、ミクログリアはRac1/WAVEを介したアクチン重合を経てAβを貪食し、Aβ除去作用を持つことが示唆された。今後、ミクログリアをターゲットとした新たADの治療戦略が登場することが期待される。
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