研究概要 |
粥状動脈硬化症の進展の一因となるマクロファージの泡沫化は,低比重リポタンパク質の酸化成績体(酸化LDL)の貧食に伴うコレステロールエステル(CE)の過剰産生に起因する。しかしながら,この産生反応において必須となるアシルCoAおよびその前駆体である遊離脂肪酸の供給経路については明確ではない。本研究では,膜リン脂質から脂肪酸を遊離させる酵素の一つにホスホリパーゼA_2(PLA_2)が知られていることから,本酵素が遊離脂肪酸を供給することでCE生成に寄与する可能性について検索してきた。 平成15年度まではマウス由来の細胞での検討であり,本年度ではヒトでの検討を行うため,ホルボールエステルでマクロファージに分化させたヒト単球系(THP-1)細胞を用いた。まず,細胞内のPLA_2分子種の存在を確認するために,IVA型,IVC型およびVIA型PLA_2の発現レベルをRT-PCRおよびイムノブロットにて解析し,さらに,酸化LDL刺激に伴う発現レベルの変動の有無について検討した結果,マクロファージへの分化の過程でいずれの分子種の発現量も増大していたが,刺激に伴う変動は見られなかった。 THP-1細胞由来マクロファージでは,酸化LDL刺激によりコレステロールエステルの増大が誘起され,この増大は三種の分子種の阻害剤により抑制され,一方,VIA型PLA_2の特異的阻害剤の影響を受けなかった。また,IVA型PLA_2に対するsiRNA発現細胞を用いたところ,コレステロールエステルの増大は対照細胞と同程度に誘起された。そこで,IVC型PLA_2の強制発現細胞を用いて検討した結果,本酵素の発現量の増加に伴いコレステロールエステルの産生量も増大した。 したがって,本研究での結果から,マクロファージの泡沫化の原因となるコレステロールエステルの産生過程においてIVC型PLA_2がそのアシル鎖となる脂肪酸の供給に寄与していることが判明し,その阻害が粥状動脈硬化症の進展阻止に繋がる可能性が示唆された。
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