MNB/DYRK1A遺伝子は、セリン/スレオニンおよびチロシンをリン酸化する酵素をコードしており、21番染色体のトリソミーが原因で起きるダウン症の発症に関与している。私達は、平成14年度の研究においてgreen fluorescent protein (GFP)を融合したMNB/DYRK1A蛋白質を過剰発現させたHeLa細胞では多核の形成が起き、中心体の数が増加することを示した。また、α-チュブリンに対する抗体を使用した免疫染色実験の結果、中心体数の増加により染色体が2等分されずに多数の中心体方向へと引っ張られることを明らかにした。ダウン症では、MNB/DYRK1A蛋白質が過剰に発現していることから、MNB/DYRK1A蛋白質を過剰発現させたHeLa細胞で見られる中心体の複製異常と、それに引き続き観察される多核形成は興味深い。そこで、本年度は、さらに、MNB/DYRK1A蛋白質の過剰発現が中心体の複製異常を惹起するメカニズムについて検討した。多核細胞形成は、GFP-MNB/DYRK1Aを過剰発現させた場合だけでなく、タグとしてFLAGを用いたFLAG-Mnb/Dyrk1Aを過剰発現させた場合も観察された。しかし、リン酸化酵素活性を欠損した変異型MNB/DYRK1A (K179RおよびY310F/Y312F)を作成し、GFPと融合させて過剰発現させた場合には多核細胞は見られなかった。以上の結果から、MNB/DYRK1A蛋白質自身の過剰発現が多核形成を惹起しており、この多核形成にはリン酸化酵素活性が必須であった。また、細胞周期を同調化させ、各時期におけるMNB/DYRK1A蛋白質のリン酸化を調べた結果、M期直前あるいはM期にMNB/DYRK1Aのセリン/スレオニン残基がリン酸化されることが明らかになった。中心体複製の制御にMNB/DYRK1Aのセリン/スレオニン残基のリン酸化がどのように関与しているか今後の課題である。
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