硫酸化グリコサミノグリカン鎖は、様々な細胞増殖因子や細胞外マトリックス成分と相互作用し、細胞接着、増殖、分化、形態形成といった細胞活動を制御している。最近、形態形成において必須のFGF、Hedgehog、Wingless(Wnt)などのシグナル伝達における硫酸化グリコサミノグリカン鎖の重要性が、主にショウジョウバエの遺伝学的研究から明らかになった。従って、硫酸化グリコサミノグリカン鎖の機能発現は生合成によって精密に調節されているに違いない。本年度は、まだクローニングされていない硫酸化グリコサミノグリカン鎖の生合成に関与する酵素4種のcDNAをクローニングし基質特異性を調べた。 (1)コンドロイチン硫酸鎖の生合成の開始と伸長を担う第二のN-アセチルガラクトサミン転移酵素(GalNAcT-2)のcDNAクローニングと発現 最近我々がクローニングしたコンドロイチン硫酸鎖の生合成の開始と伸長を担うGalNAcT-1のアミノ酸配列の情報をもとに、データーベースを検索したところ、ヒトにはさらに1種類の相同遺伝子が存在し、これはGalNAcT-1と約60%の相同性を示した。この候補遺伝子の膜貫通ドメイン以降をPCRによって増幅し、細胞外分泌signalであるinsulin leaderとprotein AのIgG-結合ドメインのsequenceを含む発現vectorに組み込み、分泌型融合タンパク質とした。この候補遺伝子産物を発現させ精製し、それを酵素源として、α-thrombomodulin及び結合領域類似体であるGlcAβ1-3Galβ1-O-benzyloxycarbonylを糖転移活性測定用受容体として用いた時、GalNAc転移活性が検出された。 (2)グルクロン酸転移酵素GlcAT-Iのショウジョウバエのオーソログのクローニングと発現 ショウジョウバエのデーターベースには、GlcAT-Iと相同性のある遺伝子は3種類存在したので、これらの塩基配列情報をもとにプライマーを合成し、保有するショウジョウバエのcDNAを鋳型としてPCR法によりクローニングした。(1)と同様に可溶性の組換え酵素として発現させ、保有する様々なオリゴ糖や合成糖鎖を基質に用いて酵素活性を測定したところ、これら3種ともGlcAT-I活性を持つことが判明した。
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