研究概要 |
硫酸化グリコサミノグリカン鎖は、様々な細胞増殖因子や細胞外マトリックス成分と相互作用し、細胞接着、増殖、分化,形態形成といった細胞活動を制御している。最近、形態形成において必須のFGF、Hedgehog、Wingless(Wnt)などのシグナル伝達における硫酸化グリコサミノグリカン鎖の重要性が、主にショウジョウバエの遺伝学的研究から明らかになった。従って、硫酸化グリコサミノグリカン鎖の機能発現は生合成によって精密に調節されているに違いない。本年度は、ヘパラン硫酸鎖とコンドロイチン硫酸鎖の重合機構を解明し、さらに、以前クローニングに成功したコンドロイチン合成酵素(ChSy)の線虫オーソログを用いて、モデル生物でのコンドロイチン鎖の機能解明を試みた。 (1)コンドロイチン硫酸鎖の重合反応を担う新規タンパク質のcDNAクローニングと発現 最近我々らがクローニングした4種のコンドロイチン合成酵素群のアミノ酸配列の情報をもとに、データーベースを検索したところ、ヒトにはさらに1種類の相同遺伝子が存在することが判明した。そこで、この相同遺伝子をクローニングし、COS細胞で発現させたが、糖転移活性を示さなかった。しかしながら、この相同遺伝子とChSyを共発現させると、ChSyの糖転移活性が飛躍的に上昇し、コンドロイチンの重合化を観察することができた。従って、我々はこの相同遺伝子をコンドロイチン重合化因子と名付けた。 (2)コンドロイチンの合成を担うChSyの線虫オーソログのクローニング線虫におけるコンドロイチンの機能解析 線虫のデーターベースには、ChSyの線虫オーソログが存在するので、そのcDNAをクローニングし、組換え型酵素として発現させたところ、ヒトのChSyと同様の活性が確認できた。そこで、線虫のChSyの発現をRNAi法で阻害すると、コンドロイチンの合成不全が生じ、線虫の初期胚において細胞質分裂が逆転し、細胞が多核化することを見いだした。 (3)ヘパラン硫酸鎖の重合機構とその合成を担う糖転移酵素の結晶解析 ヘパラン硫酸鎖の生合成は、癌抑制遺伝子である5種のEXTファミリー(EXT1,2,EXTL1,2,3)により司られているが、今までヘパラン硫酸の重合活性は見いだされていなかった。我々は、EXTファミリーのうちEXT1とEXT2が生体内で相互作用していることを明らかにし、この相互作用がヒトのヘパラン硫酸鎖の重合に必須であることを明らかにした。さらに、EXTファミリーのうちEXTL2を大腸菌を用いて大量に発現させ、その結晶化とドナーおよび受容体基質とのternary complexのX線結晶構造解析に初めて成功した。
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