本年度はプロテインキナーゼC(PKC)選択的阻害剤PKC412(4'-N-benzoylstaurosporine)の癌転移抑制効果の分子生物学的機序を、高転移性のマウスメラノーマ細胞(B16-BL6)を用いて検討した。まず、転移性癌細胞の運動能(ケモタキシス)に対するPKC412の影響を検討したが、PKC412処置による癌細胞の運動能変化は全く認められなかった。次に転移性癌細胞が組織内を浸潤する際に分泌するmatrix metalloproteinase(MMP)の前駆体であるpro-MMP活性に対する影響をゼラチンザイモグラフィーにより検討した。その結果、B16-BL6細胞は組織内浸潤に強く関与するpro-MMP2と9を分泌することが明らかとなったが、PKC412は、そのいずれの分泌量にも変化を与えなかった。ところが、転移性癌細胞が浸潤組織に接着する際に非常に重要な分子であるintegrin β_1の癌細胞内での発現量を特異的モノクローナル抗体を用いるウエスタンブロッティング法にて測定したところ、細胞内integrin β_1蛋白量はPKC412の用量依存的に有意に抑制されていた。PKCイソフォームについては新規なPKC(novel PKC)に属するデルタに選択的な阻害剤であるrottlerin (mallotoxin)が、血行性癌転移モデルマウスに対して抑制作用を示さず、古典的なPKC(conventional PKC)イソフォームであるアルファ、ベータ及びガンマに選択的に働くPKC412が強力に癌転移を抑制したことより、それらのイソフオームがより密接に癌転移へ関与していることが示唆された。
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