高転移性マウスメラノーマ細胞を可移植性C57BL6マウスの足蹠皮下に接種し、2週間後に原発巣を切除する自然癌転移モデルに対するプロテインキナーゼC阻害剤(PKC412)の影響を検討した。対照マウスは、足蹠皮下原発巣から肺への転移巣の増殖により全例死亡したが、RKC412(200mg/kg)を4週間経口投与したマウスの生存日数は対照マウスよりも有意にに延長するとともに、14匹中の2匹は観察期間内に死亡しなかった。PKC412による癌転移抑制作用機序をin vivoにおける癌細胞浸潤モデルを用いて検討したところ、PKC412(100及び200mg/kg)を2週間経口投与されたマウス皮下でのメラノーマ細胞の浸潤能は投与量依存的に有意に抑制された。従って、PKC412による癌転移抑制には高転移性癌細胞の浸潤能抑制作用の関与することが示唆された。この他、癌細胞が血行性転移する際、転移先臓器内に留まるのに重要な血小板凝集惹起能についてもPKC412により有意に抑制されることを見出した。 PKC412による癌転移抑制の分子生物学的機序について、転移性癌細胞が組織内を浸潤する際に分泌するmatrix metalloproteinase(MMP)の前駆体であるpro-MMP活性に対する影響を検討したが、PKC412は、その分泌量に変化を与えなかった。ところが、転移性癌細胞が浸潤組織に接着する際に非常に重要なintegrin β_1の癌細胞内での発現量は、PKC412の用量依存的に有意に抑制されていた。プロテインキナーゼCイソフォームについてはデルタに選択的な阻害前であるロットレリンが、血行性癌転移モデルマウスに対して抑制作用を示さず、古典的なプロテインキナーゼCイソフォームであるアルファ、ベータ及びガンマに選択的に働くPKC412が強力に癌転移を抑制したことより、それらの癌転移への関与が示唆された。
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