血管障害性痴呆の原因となる虚血生神経細胞死の発現機序並びにこれに対する保護機構の検索を脳虚血動物モデルおよび初代培養細胞を用いて行った。 【スナネズミを用いた脳虚血動物モデルにおける研究】 スナネズミの両側総頚動脈を結紮することにより5分間の全脳虚血を負荷した。この処置により海馬CA1領域の錐体細胞は経日的に脱落した。この一過性脳虚血による海馬錐体細胞の脱落は虚血直後にNMDA受容体拮抗薬のMK-801あるいは一酸化窒素合成酵素阻害薬のL-NAMEを投与することにより有意に抑制された。さらに、アデノシンA1受容体作動薬のCHAおよびA2受容体作動薬のCGS-21680の投与によっても錐体細胞の脱落は有意に抑制された。 【初代培養細胞を用いた研究】 ラット胎児より調製した初代培養大脳皮質ニューロンを用いて虚血生神経細胞死のin vitro実験系を確立した。溶存酸素を窒素置換したグルコース不含Eagle液で初代培養細胞を処置(以下虚血処置)すると処置時間に依存した神経細胞死が発現した。虚血処置により発現する神経細胞死はMK-801、L-NAMEにより有意に抑制された。さらに、アデノシン、CHA、CGS-21680の投与によっても抑制された。アデノシンの神経保護機構を検索した結果、CHAはA1受容体を介して虚血処置中のグルタミン酸遊離を減弱させることにより、CGS-21680はA2受容体を介してPKAを活性化させることより保護作用を発現していた。さらに、虚血処置中の細胞外アデノシン量は有意に増加していた。 以上、本研究成果より、虚血生神経細胞死にはグルタミン酸神経系の過剰興奮による一酸化窒素毒性が重要な役割を果たしていることが明らかになった。このような神経毒性に対してアデノシンはA1、A2両受容体を介して神経細胞を保護することが明らかになった。
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