研究概要 |
本研究代表者は本研究を始めるに際し,以下の4点に戦略を絞りその合成設計を行った。即ち,1)N-アルキル鎖およびリンカー部分のメチレン鎖の長さを変化させる。2)カウンターアニオンを変化させる。3)リンカーそのものの結合様式を変化させる。4)ピリジン環部分を変化させる,の4点である。昨年度までに,合成戦略1)については予定していた化合物の70%の化合物を,2)については全ての化合物を合成し,熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)に対する選択毒性580倍(P.falciparum ; EC_<50> 1.0x10^<-8>M, FM3A ; EC_<50> 5.8x10^<-6>M)の強い活性を有する化合物を見出した(本研究では,EC_<50>が10^<-6>M以下の抗マラリア作用を示すか,またはFM3A細胞と比較して選択毒性が10倍以上のものを有効と判断する)。本年度に於いては2月末までに本研究で合成予定であった化合物は全て合成が完了し,抗マラリア活性の測定に関してもその3/4が終了している。その過程で,昨年度までの選択毒性580倍を上回る抗マラリア活性物質を見出した(選択毒性670倍)。また,本年度の構造活性相関に関する検討で,N-アルキル鎖の長さとマラリア原虫に対するIC_<50>との間に良好な相関関係が存在し,N-アルキル鎖の炭素数が少ないほどIC_<50>が低い(活性が高い)ことが判明した。更に,アミド結合の結合様式を逆にした化合物は,元の結合様式のものと比べ活性にそれほどの変化は認められなかった。また,アミド結合に代えてスルフィド結合を導入した化合物の多くが高い活性を示したことから,当初抗マラリア活性に大きな役割を果たすと考えていたリンカー部分のアミド結合が,必ずしも必要でないことが明らかとなった。以上,本研究で合成した第四級アンモニウム塩ダイマーは,市販の抗マラリア薬に比べ遜色のない活性の高さを有しており,同時にこれらの化合物は合成が容易である上,既存の抗マラリア薬には見られない構造を有していることから,本研究結果は新規抗マラリア薬の開発研究において有用な情報となり今後の研究に役立つものと考えている。
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