研究概要 |
新規抗菌剤を目指して合成された第四級アンモニウム塩をダイマー化した化合物が従来の抗マラリア薬には無い構造を有したことから,もしこのものが抗マラリア活性を有していた場合,既存の化学療法剤とは薬剤耐性が交差しない,新規な作用機構を有する新規抗マラリアを開発できる可能性が高いと考え,本研究を開始した。本研究を始めるに際しては以下の4点に戦略を絞りその合成設計を行った。即ち,1)N-アルキル鎖およびリンカー部分のメチレン鎖の長さを変化させる。2)カウンターアニオンを変化させる。3)リンカーそのものの結合様式を変化させる。4)ピリジン環部分を変化させる,の4点である。その結果,熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)に対する選択毒性667倍、(P.falciparum)に対して;IC_<50> 1.5x10^<-8>M, FM3A細胞に対して;IC_<50> 10x10^<-6>M)の強い活性を有する化合物を見出した(本研究では,IC_<50>が1.0x10^<-6>M以下の抗マラリア作用を示すか,またはFM3A細胞と比較して選択毒性が10倍以上のものを有効,100倍以上のものを著効と判断する)。また,構造活性相関に関する検討では,N-アルキル鎖の長さとマラリア原虫に対するIC_<50>との間に良好な相関関係が存在し,N-アルキル鎖の炭素数が少ないほどIC_<50>が低い(活性が高い)ことを見い出した。尚,アミド結合の結合様式を逆にした化合物は,元の結合様式のものと比べ活性にそれほどの変化は認められなかった。更に,アミド結合に代えてスルフィド結含を導入した化合物の多くが高い活性を示したことから,当初抗マラリア活性に大きな役割を果たすと考えていたリンカー部分のアミド結合が,必ずしも必要でないことが明らかとなった。このように,本研究で合成した第四級アンモニウム塩ダイマーは,市販の抗マラリア薬に比べ遜色のない活性の高さを有しており,同時にこれらの化合物は合成が容易である上,既存の抗マラリア薬には見られない構造を有していることから,本研究結果は新規抗マラリア薬の開発研究において有用な情報となり今後の研究に役立つものと考えている。
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