研究概要 |
薬物分子とその標的受容体との相互作用を考えたとき,前者の分子周囲に及ぼす影響として,静電場および立体場は近年のQSARの基本パラメータとなっている。これらの相互作用の他に疎水相互作用が重要であることは知られているが,静電および立体相互作用に比較して,疎水相互作用およびそのパラメータの導出は経験的な方法が現在まで使われてきている。本研究では,疎水相互作用とそのパラメータの理論化学的導出から疎水場の定量的構築を目的として,ab initio MOによる溶媒和計算によるlog Pの予測と解釈,およびフロー法による種々の条件下でのlog P値の測定を行った。 種々の構造を有する約200個の有機化合物のlog P_<oct>(n-octanol/H_2O)およびlog P_<CL>(chloroform/H_2O)実測値を目的変数,ab initio MOによるn-octanol(あるいはchloroform)とH_2O中での溶媒和静電相互作用エネルギーの差と溶媒接触表面積を説明変数とする重回帰分析から,良好な相関式を得られ,相関式の2つの係数は,2つの溶媒系での溶媒和静電相互作用エネルギー差を分配のエンタルピー項,接触表面積をエントロピー変化の比例項とする理論式との満足な一致を得た。同時に,水素結合供与体グループでは,エンタルピー項の係数は水素結合に関与しない分子,水素結合受容体グループに比較し著しく異なり,静電相互作用以外の相互作用が存在することが示唆された。 上記の水素結合供与体分子であるフェノール誘導体等について,本研究分担者らと種々の分配系でのフロー法によるlog P値の精密測定を行い,それらのlog P値間の相関等の検討を行った。今後,これらの温度条件等の測定条件による実測値をあわせて,計算・理論と実験両面のアプローチにより,薬物分子の疎水場の定量化を行う予定である。
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