癌や心筋梗塞において低酸素状態は重要な因子で、細胞の酸素濃度認識機構の解明は、これらの病気の予防や治療に有用であると考えられる。細胞が低酸素になると、通常はユビキチン化-プロテアゾーム系によって分解されている低酸素感受性因子HIF-1αが蓄積、核内移行して、赤血球増殖因子(エリスロポエチンEPO)や血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの遺伝子を活性化する。ヒト肝癌細胞において、NADPH-P450還元酵素(NPR)をノックダウンすると低酸素におけるHIF-1αの蓄積、核内移行が起こらなくなった。一方、環境ホルモンであるビスフェノールA(BpA)を細胞に投与しても、同様の効果が現れた。本研究は、このメカニズムを明らかにすることで、細胞の酸素濃度認識機構を明らかにしていくことを目的としている。NPRをノックダウンすると低酸素状態でHIF-1α mRNAレベルは変化しなかったが、HIF-1αタンパク質の分解促進が見られ、NPRはHIF-1αタンパク質の安定化に寄与していることが明らかになった。BpAは最初NPRと結合して機能阻害することで同様のHIF-1αの不安定化をもたらしていると考えていたが、BpAはHIF-1αとシャペロンタンパク質であるHSP90の結合を阻害して、HIF-1αタンパク質の分解促進をしているという新知見を得た。さらに、このHIF-1αの分解経路はこれまでのユビキチン化-プロテアゾーム系とは異なる新経路の可能性が示唆された。現在のところNPRとBpAの関係は明らかでないが、two-hybrid法を用いてNPRと相互作用する因子を解析したところ、いくつかの新しい因子を見いだすことができた。本研究によって見いだされた新知見を元にさらに研究を進めれば、細胞の低酸素認識機構について新しいメカニズムが明らかにできるものと考えている。
|