研究概要 |
ニトログリセリン(NTG)や硝酸イソソルビド(ISDN)などの有機ニトロ化合物は急性心不全や狭心症患者の治療薬として古くから用いられている.我々は,チトクロームP450 (P450)がこれらの薬剤からNOを生成する酵素として重要な役割を果たしていることを明らかにした (FEBS Lett. 462:165,1999).硝酸剤を〜48時間持続投与すると本剤に対する耐性が出現するが,一方、ニトロプルシドやNOの直接的なドナーでは本耐性は見られない.我々は,NTG投与患者の剖検例で心血管系と静脈系のP450分子種に免疫組織学的な変化が見られることなどから,P450によるNO産生系が本耐性にも重要な役割を果たしている可能性を提唱してきた(Free Rad Biol Med. 31:1498,2001)。NTGやISDNを持続投与したラットでP450分子種の変化を解析したところ,冠動脈や末梢血管で多くのP450分子種の量と活性が低下しており,血漿および尿中のNOx(NO2^-+NO3^-)量も減少した.2日間持続投与後に2日間休薬すると,P450の量と活性が投与前値に回復し,耐性も消失した.このようにP450活性と耐性出現には逆相関が認められた.実験的にP450を誘導したり,阻害したりしたラットでもP450と耐性の関連性を確認できた。以上の所見より,本耐性機構にはP450が重要な役割を果たしていることが示唆され,その制御法の開発がヒトにおいても硝酸剤抵抗性を回避しうる可能性がある。また,NO産生量は耐性時に完全に抑制されないので,本機構以外の分子機構も存在すると考えられるが,これについてはさらに解析をすすめている.
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