研究概要 |
ヒトPEPT1発現細胞(HeLa-hPEPT1細胞)を用いて、我々が報告してきた手法(R.Kohda-Shimizu et al.,Int.J.Pharmaceut.220:119-128,2001)に従って、セフェム系抗生物質(7化合物)、ペニシリン系抗生物質(3化合物)のヒト経口吸収率を予測できることを、平成14〜15年度の研究で示してきた。また、経口投与されないセフェム系抗生物質であるセファゾリンとセフォチアムについて検討したところ、PEPT1に対する親和性は、セファゾリンは他のPEPT1の基質と同程度であるが、セフォチアムの親和性は極めて低いことが示された。すなわち、セファゾリンはPEPT1に結合するが輸送されないのに対して、セフォチアムはPEPT1に結合しないと考えられた。 さらに、他の化合物について検討を進めた。まず、PEPT1への親和性が報告されているスルホニルウレア薬であるナテグリニドについて検討したところ、ナテグリニド自身はPEPT1では輸送されないことが示された。一方、PEPT1の基質であるグリシルサルコシンの輸送に対して、ナテグリニドは非競合的に阻害することが示された。従って、ナテグリニドは基質結合部位以外の部位へ結合することにより、PEPT1を阻害すると考えられた。他のスルホニルウレア薬の阻害様式についても、今後、検討を進める予定である。次に、PEPT1による輸送が報告されているACE阻害薬について検討を加えた。グリシルサルコシンの輸送に対してカプトプリルが競合的阻害を示したことより、カプトプリルはPEPT1の基質認識部位へ結合することが示された。一方、カプトプリル自身の取り込みには、HeLa-hPEPT1細胞とMock細胞の間で差は見られず、カプトプリルはPEPT1では輸送されない可能性が示された。今後は定量法に改良を加え(現在のHPLC法から高感度のLC-MS法への改良)、他の細胞株(例えばHEK293細胞)にヒトPEPT1を発現させた系を用い、さらに他のACE阻害薬も含めて、検討を加える予定である。
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