研究概要 |
申請者等が見い出したインテグリン機能抑制性ペプチドFNIII14によって、メラノーマ細胞B16BL6の細胞外マトリックス(ECM)への接着を抑制すると、タキソールとビンクリスチンのB16BL6に対する殺傷効果が飛躍的に上昇することが明らかになっている。本研究では、FNIII14の薬物としての利用を展望し、FNIII14の作用の系統的解析を実施すると共に、FNIII14の抗癌剤感受性増強の作用機構を究明する。 上記の目的の下に、本年度は正常線維芽細胞NIH3T3と悪性黒色腫細胞B16BL6の各種抗癌剤に対する感受性がFNIII14によってどのように変化するかを解析した。その結果、微小管関連抗癌剤であるタキソールとビンクリスチンのB16BL6に対するID50は、FNIII14を共存させることによってそれぞれ1/150,1/200に低下したのに対し、NIH3T3のID50はいづれも約1/20以下であった。また、代謝拮抗作用を有するメトテレキサート、アルキル化剤チオテバ、シスプラチンのB16BL6に対するID50は、FNIII14を共存させても目立った変化は見られなかったが、興味深いことにDNA/RNA合成阻害剤であるアクチノマイシンDのB16BL6に対するID50はFNIII14共存下で1/1000に激減した。しかしながら、類似の作用を示す抗癌剤であるダウノルビシンではこのような劇的な感受性変化は観察されなかった。また、FMIII14による抗癌剤感受性増強の作用機構の究明を試みた結果、細胞の生存シグナルに関与すると考えられているBcI-2の発現が、FNIII14を添加することによって対照の1/3以下に低下していることが明らかになった。一方、申請者らはテネシン-C分子内のFNIII14類似配列ペプチドTNIIIがFNIII14とは逆にインテグリン活性化作用を示すことを最近見い出した。このTNIIIについても同様の検討を行なった結果、FNIII14で感受性増強が見られなかった非接着性白血病細胞のアクチノマイシンD感受性が、TNIIIによってK562細胞をマトリックス上に強制接着させると1/100以下に低下することが示された。FNIII14と同様、TNIIIもインテグリンシグナルの調節を介して抗癌剤感受性に影響したものと考えられ、TNIIIの作用についても検討を加えて行く予定である。
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