申請者等が見出したインテグリン機能抑制性ペプチドFNIII14によってメラノーマ細胞B16BL6の細胞外マトリックスへの接着を抑制すると、抗がん剤の一つであるアクチノマイシンDに対する感受性が上昇することを見出した。FNIII14のこの作用が他の抗がん剤でも観察される普遍的な現象であるかどうか、更にはFNIII14によって抗がん剤感受性が上昇する分子機構の究明を実施した。 以下のことが明らかになった。 1)まづ、FNIII14が接着性細胞のβ1インテグリンに対しても活性化抑制作用を示すかどうかをFACS解析により確認した結果、非接着細胞の場合と同様に、FNIII14には強力な活性化抑制作用がある事が確認され、がん細胞がECM接着によって抗がん剤耐性を獲得するのを、FNIII14がブロックできる可能性が示された。 2)FNIII14による抗がん剤感受性増強は、微小管を標的とする抗がん剤(パクリタキセル、ビンクリスチン、ビンデシン)で極めて顕著に認められた(FNIII14添加によってLD50が対象の1/100〜1/10000に低下)。 3)DNA/RNA合成阻害作用や代謝拮抗作用あるいはアルキル化作用を示す抗がん剤に関しては、アクチノマイシンDを除いて強い感受性増強は認められなかった。 4)B16BL6がフィブロネクチン基質上に接着した時のPI3K-AKT経路の活性化をFNIII14は抑制し、その結果、抗アポトーシス蛋白の発現を強く抑制した。 札幌医科大学の新津洋司郎教授等の研究グループは、急性骨髄性白血病細胞はインテグリンα4β1を介して骨髄ストローマに接着して抗がん剤耐性を獲得すること、更にα4β1と骨髄ストローマの相互作用が微小残存白血病の発症と治療後の経過た重要な役割を果たしている事を見出した。FNIII14は、α4β1を介した接着に対しても阻害作用を示す事が明らかになっており、FNIII14を微小残存自病の治療に応用できる可能性が考えられる。現在、この方向での検討を進めているところである。
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