研究概要 |
近年,カテキンやケルセチン等のフラボノイド系天然抗酸化剤は,がんや心臓病などの予防薬として注目を集めている.また,空気清浄機におけるカテキンフィルターにみられるように,エアフィルターの効果を高める目的にも利用されている.今年度は天然型カテキンのラジカル消去作用の増強を目的として,カテキン構造を平面に固定した平面型カテキン(1H)を合成し,ラジカル消去能と酸化的DNA傷害に対する抑制効果について検討した. Oxa-Pictet Spengler反応を利用して,カテキンをアセトン中,BF_3Et_2Oを添加することにより1Hを合成した.X線構造解析により,1Hは分子全体が平面に固定されていることがわかった.1Hのラジカル消去能を酸素ラジカル種としてgarvinoxyl radical (G・)を用いて紫外可視分光法により解析し,1HからG・への水素移動速度定数(k_<HT>)を1.12×10^3M^<-1>s^<-1>と決定した.同様のラジカル消去能はカテキンの場合,k_<HT>=2.34×10^2M^<-1>s^<-1>となり,最も強力な天然抗酸化剤であるケルセチンの場合はk_<HT>=1.08×10^3M^<-1>s^<-1>と決定された.このことから,1Hのラジカル消去能はカテキンと比べて飛躍的に増強し,ケルセチンと同程度であることがわかった.次に,ヒドロキシルラジカル(Fenton反応)による酸化的DNA損傷反応に対する影響について検討したところ,カテキンやケルセチンはDNA切断反応を促進するのに対して(prooxidant効果),1Hは濃度依存的にDNA切断反応を抑制した.以上,1Hは非常に優れたラジカル消去剤であることが明らかとなった.(J. Am. Chem. Soc. 124,5952-5953,2002) 本研究は天然型カテキンのラジカル消去能を化学修飾によって増強させた初めての例であり,現在,医療および環境因子による健康被害の防止を目的として1Hの抗ウイルス作用,糖タンパク質の輸送阻害作用,放射線傷害予防作用について検討している.なお,1Hの酸化還元挙動と電子分布状態についても明らかにした(Chem. Res. Toxicol. 16,81-86,2003).
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