本研究では、βアミロイド蛋白、プリオン蛋白、αシヌクレインなど神経疾患の発症に重要な働きを持つアミロイド蛋白に共通した神経細胞死メカニズムを探り、その毒性を阻害する物質を探索することを目的とする。これまでに、上記の蛋白がいずれもβシート構造を取り、細胞内カルシウムホメオスタシスの異常を引き起こし、最終的に神経細胞死を引き起こすことを明らかにしてきた。本年度は、この研究をさらに進めた結果、プリオン蛋白断片ペプチド(PrP106-126)の投与によって培養海馬神経細胞内カルシウム流入が生じ、これは細胞外カルシウム濃度を増強させることによって顕著になることを見いだした。また、亜鉛、アルミニウム、銅などの金属がこれらの蛋白のconformation変化を促進することを既に見いだしており、これらの金属とプリオン蛋白との結合が細胞内カルシウム流入や毒性に及ぼす影響についても検討を行った。さらに、他の金属結合部位を持つ断片ペプチドについても同様に検討することを考え、さまざまなプリオン蛋白断片ペプチドの合成を行った。また、これらの金属自体で神経細胞死を起こすことも明らかにしており、相乗作用を検討する目的で金属による神経細胞死の薬理学的検討を行った結果、亜鉛、アルミニウムによる神経細胞死にはカルシウム濃度が大きく影響することを見いだした。これらの結果から、疾患発症におけるカルシウムホメオスタシスの重要性が示唆された。
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