申請者は、これまでにアルツハイマー病、プリオン病、パーキンソン病など様々な神経疾患の発症に重要な働きを持つ疾患関連蛋白(それぞれ、βアミロイド蛋白、プリオン蛋白、αシヌクレイン)がいずれも細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こすことを見いだしている。これらの蛋白は、いずれもβシート構造からなるアミロイド繊維状構造をとり、人工脂質二重膜上でカチオン通過性のチャネル(pore)を形成することが報告されており、アミロイド・チャネル形成による細胞内カルシウムホメオスタシスの異常がこれらの疾患で見られる神経細胞死の原因であり、ひいては発症に重要な役割を果たすのではないかと考えて、そのメカニズム探索及び毒性阻害物質の探索を行ってきた。本年度は、この研究をさらに進めた結果、さまざまなプリオン蛋白断片ペプチドを合成し、これらの神経毒性および細胞内カルシウム濃度変動に与える影響を検討した。また、プリオン蛋白は銅・亜鉛結合能を持つことから、銅・亜鉛結合部位のペプチドを合成し、金属共存による影響も検討した。その結果、プリオン蛋白断片ペプチドによる細胞内カルシウム濃度上昇と神経細胞死とが相関していることが判明した。また、カルシウム、銅、亜鉛などの添加はプリオン蛋白断片ペプチドの神経毒性に影響することが明らかになった。また、これらの金属自体で神経細胞死を起こすことも明らかにしており、相乗作用を検討する目的で金属による神経細胞死の薬理学的検討を行った結果、亜鉛、アルミニウムによる神経細胞死にはカルシウム濃度が大きく影響することを見いだした。これらの結果から、疾患発症におけるカルシウムホメオスタシスの重要性が示唆された。
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