研究概要 |
アルキルフェノール誘導体ビスフェノールA(BPA)はポリカーボネイト,ポリスチレン樹脂等の原料として用いられ,多量に環境中に排泄されている.種々のin vitro実験系において,BPAはエストロゲン受容体に結合し,エストロゲン様活性を示すことから環境におけるBPAの内分泌撹乱作用が懸念されている.しかしながら,BPAのエストロゲン様活性は17β-エストラジオールの約数千〜数万の一と非常に弱い.一方,in vivo動物実験系においてBPAによる精巣上体重量の減少,精子運動能の低下,セルトリ細胞の機能変化などの精巣機能障害が報告されている.BPAによるセルトリ細胞障害誘導機構を詳細に明らかにするために,BPA処理後の遺伝子発現変化の時間経過をcDNAマイクロアレイを用いて検討した. BPA(200μM)は濃度依存的かつ時間依存的に細胞障害を惹起した.また,BPA(100-400μM)により濃度依存的に細胞内Ca^<2+>濃度が一過性に上昇し,200μMBPAによりERストレスのマーカー遺伝子BipGRP78が時間依存的に増加した. 200μMBPA処置細胞の遺伝子発現変化をマイクロアレイを用いて経時的に観察した.31個の遺伝子発現の上昇が認められた.これらの遺伝子は、大きく1)時間依存的に増加する遺伝子,2)6時間後に発現が最大になる遺伝子,3)12時聞後に発現が最大になる遺伝子,に分類された.これらの遺伝子の中でchopが薬物処理直後から最も大きく変動する遺伝子であることが判明した.また,myc oncogene, fra-2とornithine decarboxylaseの顕著な発現上昇も認められた.これら4つの遺伝子の発現量の上昇はTaqMan定量的PCRで確認された. BPAによる細胞障害におけるchopの役割を解析する目的で,chopの遺伝子発現を抑制したchopR細胞を構築した.ChopR細胞ではmock細胞に比べてBPAによるchopタンパク質の発現誘導が約半分に抑制された.同細胞において,BPAによる細胞障害は有意に抑制されたので,BPAの細胞障害に少なくとも一部chopが関与していることが示された.
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