研究概要 |
ビスフェノールA(BPA)は,ポリカーボネイト,ポリスチレン樹脂等の原料として用いられ,多量に環境中に排泄されているのでその環境における内分泌撹乱作用が懸念されている.BPAの作用発現機構解明を目的として,樹立した精巣セルトリTTE3細胞とcDNAマイクロアレイを用いて,BPAによって発現が変化する遺伝子群を解析した.合計約2,000種類の遺伝子の発現を検討した結果,BPAにより1/2以下に発現量が減少する遺伝子が3種類2倍以上に増加する遺伝子が39種類同定された.今回行なった実験条件下において,BPA暴露直後から最も発現が上昇する遺伝子はCEBP転写因子ファミリーに属するchopであった.本遺伝子の役割を検討するために,TTE3細胞にアンチセンスの向きでchopの遺伝子の全長を安定発現し,chopタンパク質発現量が減少したchopR14細胞を樹立した.chopR14細胞において,BPAによるchopタンパク質の発現は,mock細胞(ベクターのみ導入細胞)に比べて有意に減少した.ChopR14とmock細胞を比較した時,chop14細胞ではBPAによる細胞障害が有意に低下したが,小胞体ストレスのマーカーであるGRP78の遺伝子発現は両細胞間で差は認められなかった.これらの成績から,BPAによる精巣セルトリ細胞の機能障害発現機構の少なくとも一部にchopが関与していることが示された.
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