研究概要 |
抗生物質は医療のみならず畜産・養殖の現場で幅広く用いられている.野外での抗生物質使用は,自然環境中の抗生物質耐性菌の増加を招き,さらに遺伝子伝播により新たな耐性菌が出現する.したがって,自然環境中における抗生物質耐性菌の動態を知ることは,抗生物質耐性菌のさらなる拡大を防ぐうえで重要である.本年度は,河川に生息する細菌が保有するテトラサイクリン耐性遺伝子の多様性と生息環境の関係について検討し,以下の知見を得た. 1.兵庫県および大阪府下を流れる猪名川および神崎川より表層水を採取し,20種類のテトラサイクリン遺伝子の検出を試みた.人間活動による汚染がほとんどないと考えられる猪名川源流付近の試料からはいずれのテトラサイクリン遺伝子も検出できず,そこから約20km下流の都市郊外の住宅地域に位置する地点においてはtetD遺伝子のみを検出した.さらに15km下流の周辺は住宅,工場,商業施設が存在する5地点の河川試料からtetA, B, C, D, E, Yの6種類を検出した.また,汚染がより進行していると考えられる神崎川下流の試料からはtetA, B, C, E, G, H, L, M, 0, Q, Y, Zの12種類の耐性遺伝子を検出した.したがって,人間活動による汚染の進行に伴い,生息する細菌が有するテトラサイクリン遺伝子の多様性が高くなると考えられる. 2.1.で述べた猪名川下流域の5地点において,河川の表層水および河床に形成されたバイオフィルムを採取し,存在するテトラサイクリン遺伝子を比較したところ,各地点において表層水よりバイオフィルム中の細菌のほうが,多様なテトラサイクリンを有していることがわかった.
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