研究概要 |
抗生物質は医療のみならず畜産・養殖の現場で幅広く用いられている.野外での抗生物質使用は,自然環境中の抗生物質耐性菌の増加を招く.さらに遺伝子伝播により新たな耐性菌が出現することから,自然環境中における抗生物質耐性菌の動態を知ることは,抗生物質耐性菌のさらなる拡大を防ぐうえで重要である.本年度は,河川水を用いたマイクロコズムを作成し,抗生物質に対する細菌群集の応答を検討した.またβラクタマーゼの系統解析を行うとともに,本遺伝子検出用PCRプライマーの作成・有効性評価を行い,以下の知見を得た. 1.作用機序の異なる3種類の抗生物質(ナリジクス酸,テトラサイクリンおよびアンピシリン)をそれぞれ単独に加えたマイクロコズム中の細菌群集構造の変化を調べた.その結果,いずれのマイクロコズムにおいても細菌数に顕著な差は認められなかったが,群集構造は大きく異なった. 2.水圏におけるテトラサイクリン耐性菌の挙動についてバイオフィルム形成との関係を調べた.その結果,バイオフィルムを形成することにより,多様な細菌種がテトラサイクリンに対する耐性を獲得することがわかった. 3.GenBankに登録された約400種類のβラクタマーゼの系統解析を行った.その結果,本遺伝子の多様性は極めて高く,その起源は単一ではないことが示された.さらに本遺伝子を標的とした48種類のPCRプライマーセットをデザインし,13種類について特異的な遺伝子検出のためのPCR条件を決定した.さらに作成したPCRプライマーを用いて,河川水試料を解析したところ,クラスA, BおよびDに属するラクタマーゼ遺伝子を検出した.
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