研究概要 |
本年度はモルヒネの代謝酵素遺伝子のクローニングを検討した。最初にケシからモルヒネ代謝酵素の大量精製を行ったが、本実験を遂行する際に、モルヒネがビスモルヒネのみならず、新規化合物へと代謝されることを発見した。そこで、この代謝産物を各種クロマトグラフィーにより単離し、各種スペクトルデーターを測定した結果、本化合物が2個のモルヒネユニットの酸化重合体であることを確認し、ビスモルヒネBと命名した。ビスモルヒネBはビフェニルエーテル結合を有するはじめてのモルヒナンアルカロイドである。 次いで、モルヒネ代謝酵素の遺伝子をクローニングするために、プロテアーゼを用いて本酵素を部分分解し、得られたペプチドフラグメントのアミノ酸シークエンスを行ったが、部分アミノ酸配列を決定することができなかった。従って、クローニングに必要なプライマーを作成することが不可能であったので、ホモロジーを利用してクローニングを試みた。 モルヒネの代謝酵素はパーオキシダーゼの一種であるので、各種植物パーオキシダーゼの保存アミノ酸配列に基づいて、重複プライマーを設計し、degenerate PCRを行った。さらにRACE法を用いて全長をコードする3種の遣伝子(OP1,OP2,OP3)のクローニングに成功した。これらの遺伝子がコードしているタンパク質はいずれもパーオキシダーゼに特徴的なモチーフ(heme-binding site及びactive site)を有することが確認された。このうち、OP2の理論的なpIは4.92、分子量は33.4kDaと計算され、実際にケシから精製したモルヒネ代謝酵素のそれと酷似した値を示した。現在、本遺伝子の大腸菌中での発現を試みている。
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