研究概要 |
本研究の背景として、結核菌生菌がヒト線維芽細胞株に対して細胞傷害活性をもつこと、この現象は死菌では全く見られないことを研究代表者らは明らかにしている(J. Interferon Cytokine Res. 21(3), 187-196 (2001))。本研究では、この結核菌の細胞傷害活性の機構を明らかとするために、IL-1レセプターファミリーであるtoll like receptors(TLRs)からのシグナル伝達の関与について検討した。MRC-5細胞はTLRsのうちTLR1〜TLR10の発現をRT-PCR法によって調べたところ、全てのTLRsを発現していた。これらのサイトカインやTLRsからのシグナル伝達に共通に関わっているNFκBについてレポーター遺伝子解析を行った結果、細胞傷害活性とNFκBの活性化が比例していた。 抗酸菌のリポ蛋白はTLR2の強いリガンドであり、マクロファージのアポトーシスを誘導することが近年報告された。共同研究で、結核菌と同じ抗酸菌であるM. lepreの33kDのリポ蛋白を同定した(Infect. Immun. 70(8) : 4106-4111 (2002))。このリポ蛋白は細胞壁の中に存在し、一部放出されているが、死菌では飽埋されてしまい、免疫原性が失われてしまう。本現象も同様な菌体細胞壁中に存在するリポ蛋白によって引き起こされる可能性がある。 本現象は生菌で認められ、死菌で全く認められないことから、新規抗結核薬のスクリーニング法に応用した(Anti microb. Agents Chemother. 46(8) : 2533-2539 (2002))。結核症の第1選択薬として使用されている5種の薬剤(INH, SM, RFP, EB, PZA)のうち、4種の薬剤(INH, SM, RFP, EB)については、液体培地を用いた従来法と比較して同程度の感度で抗菌活性を測定が可能であった。時間的には従来法では2週間かかるところ、本法では3日で結果を得ることが可能である。また、試験管内で抗菌活性を測定することが非常に難しいピラシナミド(PZA)(宿主細胞内に取り込まれ、食胞とリソソームが融合して酸性条件下で活性を示す)については128倍の高感度で測定することが可能であった。本法はPZAのような宿主細胞内で活性を持つタイプの抗菌薬のスクリーニングにも適している。
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