研究概要 |
我々は結核菌生菌がヒト線維芽細胞株に対して細胞傷害活性をもち、本活性は死菌では全く見られないことを明らかにした(J.Interferon Cytokine Res.,2001,Antimicrob.Agents Chemother.,2002)。本研究では、インターロイキン1関連レセプターからの結核菌生菌によるシグナル伝達の調節機構を明らかとするために、IL-1レセプターファミリーであるtoll like receptors (TLRs)の発現調節機構について検討した。抗酸菌のリポ蛋白はTLR2の強いリガンドであり、マクロファージのアポトーシスを誘導することが報告されている。一方、大腸菌などのグラム陰性菌に含まれるリポ多糖(LPS)はTLR4を介して、そのシグナルが伝達されることが報告されている。本研究では、TLR2とTLR4の発現調節機構をLPSやTGFβにより正・負に制御されていることを明らかとした(Immunology,2003,J.Leukocyte Biol.,2004)。また、生菌特異的な細胞傷害活性についてTLRsからのシグナル伝達とサイトカイン産生について検討した。ヒト肺由来培養細胞株MRC-5はTLRsのうちTLR1〜TLR10までを発現していた。TLRsからの共通のシグナルを伝達するNF-κBについてレポーター遺伝子アッセイを行った結果、細胞傷害活性とNF-κBの活性化が比例していた。NF-κBを遺伝子制御領域に含む炎症性サイトカインのレポーター遺伝子アッセイを行った結果、同様に転写活性が生菌特異的に上昇していた。これらの炎症性サイトカインのmRNAの発現をRNase protection assayにより行った結果、生菌特異的に前述のサイトカン遺伝子の発現を確認できた。興味あることに、これらのサイトカインの誘導時期が細胞傷害活性の発現誘導時期と一致していることからTLRからのシグナルが共通に関与していることが示唆された。本研究の実践的な成果として、臨床株の抗結核薬ピラジナミドの薬剤感受性試験に応用可能であることが示された(Antimicrob.Agents Chemother.,2005)。
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