本年度はジメチルヒ素の酸化的損傷誘発機序ならびに発がん影響との関連について検討した。その結果、ヒ素発癌において重要な因子と考えられており、かつ無機ヒ素代謝物の一つである3価ジメチルヒ素[DMA(III)]の核酸塩基への反応性および発がんプロモーション作用について明らかにした。すなわち、DMA(III)が溶液中の溶存酸素と反応することでジメチルヒ素過酸化体が生成し、この過酸化体から酸素原子1つがチミン塩基の炭素二重結合に付加し生ずるチミンエポキシドが加水分解することによりチミングリコールが生成されることを見いだした。これにより、核酸塩基の酸素付加体の主な生成要因がヒドロキシラジカルに起因するというこれまでの定説以外の新しい生成機構を提唱することが可能となった。一方、DMA(III)処理によるin vivoならびにin vitro実験による8-oxo-2'-deoxyguanosine(8-oxodG)の生成も明らかにした。マウス皮膚組織内8-oxodGを測定した結果、表皮組織においてのみ8-oxodG量の増加が観察され、この時点における活性酸素消去系酵素であるSOD、glutathione peroxidascならびにglutathione S-transferase等の活性はまったく上昇しなかったことから、この皮膚組織内8-oxodG量の増加は、上記に述べたジメチルヒ素過酸化体生成に起因する可能性がin vivo実験においても示唆された。また、DMA(III)を処理することでマウス皮膚発がん促進が認められたことから、これらジメチルヒ素過酸化体により誘発される酸化ストレスが発がんプロモーションに起因する可能性が示唆された。
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