研究概要 |
淡水産ラン藻が生産するマイクロシスチン(MC)はタンパク質リン酸化酵素であるPP1とPP2Aを強力に阻害することにより肝毒性を示すと考えられている。しかし、その発現機構の解明は遅々として進まず、適切な治療法も確立されていない。本研究では、MCによる急性毒性発現機構を解明するため、肝臓中に存在するMCの標的物質、および、その後の毒性発現の過程で関与する物質を明らかとすることを目的とし、同様の酵素阻害剤であるが肝毒性を示さないオカダ酸(OA)と種々比較検討した。 1.マウス肝臓中に存在するMC結合タンパク質を網羅的に解析するため、MCを固定化したアフィニティーカラム、二次元電気泳動およびMALDI-TOFMSを用いて分析を行った。結果、多くのタンパク質が検出されたが、さらにOAを用いた競合実験により、PP1とその核依存性調節サブユニットであるNIPP1との複合体のみがマイクロシスチンに特異的に結合するタンパク質であると示唆された。 2.肝臓中において、MC投与時にリン酸化が亢進するタンパク質を探索するため、リン酸化部位を特異的にビオチン標識し、アビジンカラムによりアフィニティー精製後、ESI-LC/MS/MSを用いて解析した。結果、あらたなリン酸化タンパク質としてformyltetrahydrofolate dehydrogenaseが検出されたが、これはMC投与時に加えOA投与時においてもリン酸化が亢進していることからPP2A阻害作用により引き起こされたと考えられた。つまりPP2A阻害作用はin vivoにおいては肝毒性には関与しないことが示唆された。 3.マウス初代培養肝細胞に対する酸化ストレスの観察を、蛍光プローブDCFH-DAを用いて行ったところ、100nMのMCを10分処理したとき,核の周辺に酸化ストレスに基づく蛍光がみられた。OAは肝細胞に対してあまり酸化ストレスを示さなかった。MCによる酸化ストレスは,比較的短時間にみられ、MCの毒性が,肝臓に対して臓器特異性があることとの関連性に興味が持たれる。
|