統合失調症治療薬ハロペリドール(HP)由来カチオン性活性代謝物(HPP^+)の生成反応として、肝臓のCYP3A4による酵素反応以外のヘム鉄含有タンパク質と過酸化物との複合体により、カチオン性活性代謝物が生成することを明らかにした。ヘム鉄含有酵素としてミエロペルオキシダーゼ、ホースラディシュペルオキシダーゼ及びカタラーゼと、過酸化物との組合せによりカチオン性代謝物生成が認められた。そこで、その経路によるHPP^+生成の反応機構と脳におけるその反応の寄与を検討した。 (1)ヘム鉄含有酵素系の関与を更に検討するために、ヘムタンパク質でないグルタチオンペルオキシダーゼと過酸化物とを反応させた結果、HPP^+生成は観察されなかった。ポルフィリン骨格が反応に必要と考えられることから、中心金属に鉄、マンガン、クロム及びコバルトを含むポルフィリン誘導体と過酸化物とを反応させ、HPP^+生成を検討した。鉄、マンガン、クロム及びコバルトポルフィリン誘導体のいずれにおいてもHPP^+の生成が認められたが、反応性に大きな差は見られなかった。一方、遷移金属イオンが触媒となってフリーラジカルが形成される反応はフェントン反応として知られている。そこで、過酸化物存在下、遷移金属イオンである鉄(II)、鉄(III)、コバルト(II)イオンと反応させたがHPP^+は生成されなかった。 (2)3週令、12週令、15ヶ月令のラット脳内過酸化脂質レベルを測定した。週令と共に過酸化脂質レベルの上昇が見られた。また、それぞれの週令のラット脳ホモジネートを用いてHPP^+の生成レベルを検討した結果、HPP^+の生成は3週令、12週令と成熟するにつれて増加し、15ヶ月令の老齢ラットでは12週令と比べて若干の増加が見られた。 HPP^+が非酵素的にヘム構造を有する化合物により生成されることが判明した。ラットの週令が高くなるにつれて脳内過酸化脂質レベルは亢進し、HPP^+生成は増加の傾向が見られた。このことから高齢者では、神経毒性を有するカチオン性代謝物生成反応がより多く進行することが示唆ざれた。
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