統合失調症治療薬ハロペリドール(HP)による薬剤性パーキンソニズム発症メカニズムの一つとして、肝臓のP450CYP3A4によってHPP^+が形成され、脳に移行し毒性を発現すると報告してきた。このカチオン性代謝物生成経路は脳神経毒性発現機構を解明する上で極めて重要である。 以下に肝ミクロソームP450以外の反応系によるカチオン性代謝物の生成経路について検討した。 (1)脳内過酸化物・ヘムたんぱく質系酵素が関与するHPからHPP^+への代謝活性化反応系について検討した。ヘモグロビンやカタラーゼなどのヘム鉄含有酵素、ヘム構造を持たないグルタチオンペルオキシダーゼ、ポルフィリン誘導体のそれぞれと過酸化物によるHPP^+生成活性を比較検討した。ヘムタンパク質あるいはポルフィリン誘導体ではHPP^+の生成が観察されたが、ヘム構造を持たないグルタチオンペルオキシダーゼでは形成は認められなかった。また、週令が高くなるにつれて脳内過酸化脂質レベルの上昇が見られたラット脳ホモジネートを用いてHPP^+生成を検討した結果、3週令、12週令と成熟するにつれてHPP^+の生成は増加し、15ヶ月令の老齢ラットでは12週令と比べ若干の増加が観察された。 (2)HPの主要代謝物の一つである脱アルキル代謝物4-(4-chlorophenyl)hydroxy piperidine(CPHP)からCPPを経てMCPP^+に至る生成経路の存在について検討した。MCPP^+は神経毒性化合物MPP^+に極めて構造が類似した化合物であり、CPP投与マウスの肝、肺、脳でN位がメチル化されたMCPP^+が検出された。 (3)ブチロフェノン系統合失調症治療薬、HP、ブロムペリドール(BP)、モペロン(MoP)で錐体外路系障害などの副作用発現に差が見られる原因について検討した。それらのカチオン性代謝物HPP^+ BPP^+ MoPP^+の生成活性と脳内蓄積性に差が見られ、それら薬物の副作用発現頻度と同じ傾向を示した。 ブチロフェノン系統合失調症治療薬は生体内でP-450系酵素以外の因子として、過酸化物・ヘム鉄含有タンパク質やN-メチル基転移酵素などにより、神経毒カチオン性代謝物に活性化されることが示唆された。加齢に伴い、脳組織は多くの環境因子の影響を受けて脂質の過酸化反応が進行することから、高齢者におけるブチロフェノン系統合失調症治療薬の長期摂取は注意を要すると考えられる。
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