研究概要 |
1.本研究では非ダイオキシン型PCBで、肝、脂肪組織、血液、母乳などに高濃度検出される2,4,5-三塩素置換PCBであるCB118、CB138およびCB187の実験動物(ラット、ハムスター、モルモット)肝ミクロゾームによるin vitro代謝を調べた。その結果、モルモットで代謝活性が最も高く、また代謝パターンもラットやハムスターと異なっていた。モルモット肝により、CB118から2種類(2-OH-CB126,2-OH-CB77)、CB138から4種類(2'-OH-CB157,3'-OH-CB138,2種のOH-pentaCB)、CB187から3種類(4'-OH-CB178,4'-OH-CB151,4-CH-CB187)の代謝物が生成された。実際、置換塩棄が6個以上になると代謝速度は著しく遅かったが、当初の予想に反して、代謝物を十分検出することができた。2,4,5-三塩素置換PCBのうち、CB118,CB138およびCB153は共通して2-OH体が主代謝物であった。これは2,3-エポキシドを酸化中間体とした反応であり、2位の塩素が3位に転位したことを示唆している。一方、CB187の場合、代謝に関与する酵素(CYP2B18)は共通であったが、2-OH体の生成は見られず、4-あるいは4'-OH体が主であった。この結果は、3,4-あるいは3',4'-エポキシドを経由して代謝が進行していることを示唆しているが、前三者との違いが何によるのか現在のところ不明である。次に、モルモットにおけるCB187代謝物の血中および糞中への分布を調べた。CB187代謝物のうち、4-OH-CB187は哺乳動物の血中で最も高濃度で検出される代謝物である。モルモットにCB187を単回腹腔内投与し、投与後4日間の糞および4日目の血液を採取した。その結果、血中代謝物は4'-OHおよび4-OH体であり、一方、糞中代謝物は、4'-OH-hexaCBと4'-OH体であった。以上のことから、3種の代謝物のうち、4-OH体は選択的に血中へ、4'-OH-hexaCBは糞中へ、また、4'-OH体は血中と糞中の両方へと分布することが示唆された。 2.さらに本研究では非ダイオキシン型PCBの毒性評価法開発の一環として、胎児培養法を用いたCB52、CB77およびCB118の毒性評価、すなわち培義中の胎児心拍動数および培養終了時の胎児の形態形成を調べた。CB118は、CB77やCB126等のcoplanar PCBと同様に、毒性等価係数0.0001が設定されている2,4,5-三塩素置換PCBである。ラット胎齢11.5日目の胎児を母獣より取り出し、48時間培養を行った。培養開始2時間後に、各PCB異性体を培養液中に10あるいは100ppmになるよう添加した。対照群にはDMSOのみを添加した。その結果、培養中の胎児心拍動数において、すべての処理群は対照群と全く同じであった。培養481時間後、CB52(10ppm)処理群では後肢に浮腫が認められたのみで、また100ppmにおいても曲尾などの異常のみであった。一方、CB118処理群では10ppmにおいては顔面部の出血や短尾が観察されたのみであったが、100ppmでは、前頭部発育遅延、上顎の低形成、口唇裂さらに全身性の発育遅延が確認された。またCB77(10ppm)処理群でも上顎の低形成や口唇裂が誘発され、100ppmではさらに全身性の出血なども認められた。以上の結果から、3種類のPCB異性体のラット胎児への毒性の強さは、WHOの毒性評価と一致して、CB77>CB118>CB52であることが明らかとなり、非ダイオキシン型PCBの毒性を特に感度よく検出できる評価法とはならなかった。
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