富士山周辺の地下水や湧水には、微量元素「バナジウム」が多く含まれている。一方、バナジウムを糖尿病モデル動物に与えると、血糖値の上昇が改善されることが報告されている。そこで我々は、富士山地下水に含まれるバナジウム濃度と同レベル(0.1mg/L)のバナジウム水溶液を調製し、これを糖尿病モデル動物に3ヶ月間飲料水として与え飼育した。しかし、糖尿病改善効果は認められなかった。一方、薬物療法を行っている糖尿病患者の中には、富士山地下水を飲み始めると血糖値が改善された者がおり、バナジウムと糖尿病薬との相互作用による相乗的薬理効果が期待されている。そこで、これらの相互作用を検討するため、バナジウムを与えて飼育した糖尿病モデルマウスに糖尿病薬を飲ませ、その治療効果について検討を行った。糖尿病薬としてブホルミンとグリベンクラミドを選んだ。ブホルミンは肝臓からのブドウ糖の放出抑制や抹消(主に筋肉)でのブドウ糖の取り込み増加、グリベンクラミドは主に膵臓のβ細胞からのインスリン放出の促准を作用機序としている。実験は糖尿病モデルマウス(KK-Ay)5週齢に1mg/Lのバナジウム水溶液を飲料水として与え、9週齢になるまで飼育した。対照群には精製水を同様に与えた。これら動物にブホルミンあるいはグリベンクラミドをそれぞれ1日1回、9日間投与した。投与期間中血糖値およびHbA1cを測定したが、バナジウムと糖尿病薬併用による効果は認められなかった。10日目に血漿中総コレステロールおよび中性脂肪を測定したが、対照群との間に差は認められなかった。また、臓器中のバナジウム量を測定した結果、肝臓および腎臓で蓄積量の増加が認められた。従って、バナジウム蓄積量に差はあるが、経口糖尿病薬の作用に差は認められないことが明らかとなった。
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