研究概要 |
目的と方法:家族性大腸腺腫症(FAP)等,家族性腫瘍について,「仮説:がん素因遺伝子診断を行い,陽性者に化学予防や予防的切除術を実施した場合,従来の標準治療と比較して,費用便益比が大きい。同様に費用効果分析,および費用効用分析の結果も優れている。」を,システムモデルおよび調査結果の分析によって検証する。2年間の実施項目は以下の通りである。 1.FAP患者・家族の同意に基づき,FACT-G等QOL調査,不安尺度(STAI)およびがん遺伝子検査の意識調査を実施した。対象症例として,多発性大腸腺腫の患者について同様の調査を行い,比較対照した。 2.遺伝子診断のもたらす心理的インパクトについて,遺伝子診断の実施および結果の開示が,患者のQOLに与える影響を考察した。 3.主要ながんの診療経過のシステムモデルを発展させ,遺伝子医療の累積医療費と労働生産性とのバランスシートに基づき,経済分析を試みるためのモデルを整備した。 4.家族性腫瘍の化学予防の経済評価を試みた。 結果:1.2.について,遺伝子検査前と,遺伝子検査の結果開示後一ケ月で,QOL各項目,および不安尺度,自覚的健康度の変化の有無を検討したが,FAP患者(N=80),多発性大腸腺腫患者(N=18)とも検査結果開示の前後で有意の変化を示さなかった。4.これまでがん予防効果について期待されている乳酸菌生菌製剤服用により中等度以上の大腸腫瘍の発生を抑制しうるというデータに基づいて,各種パラメータを設定,経済評価を試みた。服用4年後までの1人当たりの累積費用は,服用群72342円,非服用群52596円であった。 考察:乳酸菌製剤服用群は,薬剤費分だけ非服用群の費用を上回るが,今後長期の生存率等の相違が明らかになれば費用効果分析の結果に差が生じうる可能性がある。
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