【背景・目的】高齢者に対するインフルエンザ予防接種の効率性を明らかにするため、本研究は経済評価の手法である費用-効果分析を用いて(1)現行政策の費用効果(2)補助対象や補助率の異なる接種政策の費用効果について評価を行った。 【方法】(1)SN(補助実施前):公費補助なし(2)SA1(現行政策):全接種者に50%補助(3)SB1:HR^*に100%補助、nHR^*に補助なし(4)SB2:HRに100%補助、nHRに50%補助(5)SA2:全接種者に100%補助の5つのストラテジーを設定し、判断樹モデルを用い、支払い者の視点から、接種費用、インフルエンザに罹患した場合の医療費及び接種によってもたらされた効果(YOLS)をそれぞれ算出後、各ストラテジーの費用効果比(CE ratio)及び増分費用効果比(ICER)を求めた。(*HR:ハイリスク者;nHR:非ハイリスク者) 【結果】SA1、SB1、SB2、SA2のそれぞれの費用(ワクチン費用+罹患後の医療費)、効果(YOLS)及び費用効果比は下記の通りである。(1)10万人口当たりのYOLSは65年、92年、114年、139年であった。(2)接種費用は92億円、245億円、218億円、311億円、415億円であった。接種率の上昇とともに接種費用が増加する。(3)インフルエンザの罹患によって発生した保険診療費用は、429億円、365億円、346億円、322億円、295億円であり、予防接種によって保険診療費の節減効果が見られた。(4)SB1はSA1に比べ、より低い費用でより高い効果が得られた。すなわち、SA1はSB1に対し、相対劣位である(dominated)。(5)SNをベースに得た各ストラテジーの費用効果比はSA1、SB1、SB2、SA2の順でそれぞれ1YOLSあたり約、66万円、23万円、48万円、66万円であった。(6)現行政策(SA1)からSB2、SA2へ移行する場合の増分費用効果比はそれぞれ、1YOLS当たり23万円、66万円であった。 【結論】SA1の費用効果比(66万/YOLS)から現行高齢者インフルエンザ予防政策は費用効果的と言える。しかし、SA1はSB1に対し相対劣位で有ることと、SA1からSB2、SA2への増分費用効果比から、ポリシーオプションとして、現行政策からSB1、SB2、SA2への転換も考慮に値する。
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